松原市の刑事事件 物を盗んでも窃盗罪にならない
- 2019年12月5日
- コラム
物を盗んでも窃盗罪にならなかった松原市の刑事事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
◇松原市の刑事事件◇
Aさんは、運送会社の契約社員として、松原市にある倉庫で仕分けの仕事をしています。
Aさんは給料に対して不満があり、これまで何度も会社に賃金の値上げ交渉をしていますが叶っていません。
このことを不満を感じていたAさんは、1ヶ月ほど前から、会社を困らせる目的で、倉庫に保管している、配達用の車やバイクのキーを、事務所のごみ箱に投棄していました。
キーの紛失事件が頻発したことから会社が調査して、倉庫内の監視カメラの映像からAさんの行為が発覚しましたが、Aさんは「人の物を、盗んだわけでもないので、何の罪にもならないだろう。」と考えていました。しかし、会社から警察に訴えると言われて不安になったAさんは、刑事事件に強いと評判の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部に相談することにしました。
(フィクションです。)
一般的に、人の物を盗めば「窃盗罪」が成立すると思われていますが、犯罪には、それぞれの犯罪が成立するための要件があり、単に人の物を盗っても窃盗罪が成立しない場合があります。
そこで本日は、Aさんの事件を例に、そのような特殊な事件を紹介します。
◇窃盗罪は成立しない◇
一般的に人の物を盗れば成立すると思われている「窃盗罪」ですが、人の物を盗っても、行為者に窃盗の故意がなければ窃盗罪は成立しません。
窃盗罪の故意を説明する際に「不法領得の意思」という法律的な言葉がよく使われますが、窃盗罪でいうところの不法領得の意思とは、権利者を排除して、他人の物を自己を所有物として、その経済的用法に従い、これを利用処分する意思のことです。
簡単に言うと、他人の物を盗んだ(盗もうとする)犯人が、盗んだ(盗もうとする)物を、その物の持ち主の許可なく、その物が本来使用される方法によって使用したり、販売する等によって処分する意思のことです。
Aさんの事件を検討しますと、倉庫に保管している配達用の車やバイクのキーは、運送会社の管理する物ですので、窃盗罪の客体となり得ます。Aさんに、そのキーを盗って、バイクや車を使用したり、転売したりする目的があれば、Aさんの行為は窃盗罪に該当することは間違いないでしょうが、今回は、Aさんにそのような不法領得の意思はありません。
従ってAさんの行為は窃盗罪に当たらない可能性が非常に高いです。
◇何罪になるの?◇
それではAさんの行為は、何の犯罪にもならないのでしょうか。
そこでAさんの行為に適用される可能性のある犯罪について解説します。
~器物損壊罪~
器物損壊罪は刑法第261条に規定されている法律で、簡単にいうと「他人の物を損壊する」ことによって成立する犯罪です。
ここでいう「物」には「動物」も含まれますので、他人のペットを故意的に死傷させた場合も器物損壊罪が成立します。
ただAさんは、何も壊していません。
「何も壊していなくても器物損壊罪が成立するのですか?」と疑問を感じた方もいると思いますが、器物損壊罪でいう「損壊」とは、必ずしも物理的に壊すだけでなく、その物の効用を害する一切の行為が含まれます。
「効用を害する」とは、その物を、その物の用途に従って使用できなくすることです。
例えば、飲食店の食器に小便等の汚物を入れたとしましょう。食器その物が物理的に壊れているわけではありませんが、その後洗ったとしても、その様な汚い食器に飲食物を入れて客に提供することは二度とできませんので、食器の効用を害したと判断されて器物損壊罪が成立する可能性があります。
Aさんの事件を検討すると、車やバイクは、キーがなければエンジンがかからず使用できないのは当然のことで、そのキーをゴミ箱に投棄すれば、車やバイクを使用できず、その物の効用を害したと言えるでしょうから、器物損壊罪が成立する可能性があります。
ちなみに器物損壊罪は親告罪です。親告罪は、被害者等の告訴権者の告訴がなければ起訴することができませんので、起訴までに会社と示談することができれば、不起訴によって刑事罰を免れることができるでしょう。
~その他の罪~
その他、Aさんの行為は、会社の業務を妨害したとして、業務妨害罪の適用を受ける可能性があります。