被害者の同意を得ての傷害事件
- 2020年1月15日
- コラム
被害者の同意を得ての暴行による傷害事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
被害者の同意を得ての暴行
堺市中区に住むAさんは、お金に困っていたことから自己名義の自動車にかけていた任意保険会社から保険金をだまし取ろうと考えました。
そこで、Aさんは、同じくお金に困っていた友人に自動車の保険金詐欺をもちかけ、話し合い、Aさんが車を運転する加害者役、友人が車に轢かれる被害者役を務めることになりました。
そして、Aさんは、友人めがけて自動車を運転したところ、アクセル、ハンドル操作を誤り、想定以上のスピードで自動車を友人に衝突させてしまいました。
友人は、路上に頭を強く打ち付けて重傷を負ってしまいました。
目撃者の通報によって駆け付けた警察官によって逮捕されたAさんは、大阪府西堺警察署に連行されて傷害罪で取調べを受けています。
(フィクションです。)
被害者の同意(承諾)と刑事事件
被害者の同意とは、法益(本件の場合、友人の身体・生命の安全)の帰属者たる被害者(友人)が、自己の法益(身体・生命の安全)を放棄し、その侵害に承諾又は同意を与えることをいいます。
かつては、この被害者の承諾によって、「守るべき法益(保護法益)がなくなった」ことを根拠に、加害者の行為の違法性がなくなり(違法性が阻却され)不可罰となる、と考えられていました。
ところが、近年は、その「守るべき法益がなくなったこと」に加え、加害者の行為の「社会的相当性」も必要とする、という考え方が主流です。
~被害者の同意によって不可罰とされるための要件~
以上の考え方から、被害者の承諾によって不可罰とされるためには以下の要件が必要とされています。
1 承諾の内容が、被害者自ら処分し得る個人的法益に関するものであること
純然たる国家的法益や社会的法益については、一個人が処分可能な法益ではないため、承諾によって不可罰となることはあり得ません。
2 承諾自体が有効なものであること
承諾は、承諾能力を備えた者の真意に出た真摯なものでなければなりません。幼児や高度の精神病者による承諾や、強制等による承諾は有効な承諾とはいえません。
3 承諾が内心にとどまらず、外部に表明されていること
ただし、明示的に表明されたもの、黙示的に表明されたものであるとを問いません
4 承諾が行為時に存在すること
事後的に与えられた承諾は無効です。
5 承諾に基づいてなす行為が、その目的、動機、方法、態度、程度等において国家・社会の倫理規範に違反せず、社会的相当性を有すること
上記の行為に社会的相当性を求める考え方からの帰結です。
被害者の同意があれば全て不可罰なの?
仮に、被害者の同意が有効であったとしても、全ての罪において不可罰とされるわけではありません。
被害者の同意と罪の関係については以下のように分類されます。
1 被害者の同意が犯罪の成否に影響しない罪
児童買春、児童ポルノに関する罪、13歳未満の者に対する強制わいせつ罪、強制性交等罪
2 被害者の同意が刑の減軽事由とされる罪
同意殺人罪、同意堕胎罪
3 被害者の同意がないことが明示又は黙示的に犯罪の成立要件とされ、したがって被害者の同意があれば犯罪不成立となる罪
住居侵入罪、窃盗罪
4 被害者の同意によって犯罪の客体の法的性質に変更が生じ、別の罪が成立し得る罪
他人の非現住建造物等放火罪(刑法109条1項)について、その客体に放火しても、所有者が同意していれば、自己所有の非現住建造物等放火罪(刑法109条2項)に 準じて処断される
5 被害者の同意によって違法性が阻却される罪
なぜAさんは逮捕された?
友人はAさんからの誘いに同意し、被害者役を買って出ているようです。
しかし、被害者の同意が本来の同意といえるためには、「被害者の同意に基づいてなす加害者の行為が、その目的、動機、方法、態度、程度等において国家・社会の倫理規範に違反せず、社会的相当性を有すること」が必要なのです。
この点、Aさんの行為の目的は「保険金詐欺」ですから、その目的・動機において社会的相当性を有するものとは到底いえません。
したがって、Bさんの同意は有効な同意とは認められないのです。
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