暴行の共犯と傷害致死事件
- 2021年5月4日
- コラム
暴行の共犯と傷害致死事件
暴行の共犯と傷害致死事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
ケース
ある日、Aさんが、大阪府堺市堺区内の公園を通りかかったところ、BさんがVさんに殴る蹴る等の暴行を加えているのを目撃したため、Aさんは「自分もBさんに加勢してやろう」と考えた。
Aさんは、Bさんにその旨を伝え、BさんもAさんの加勢に承諾したため、AさんはVさんに殴る蹴る等の暴行を加えた。
その後、大阪府堺警察署の警察官により、AさんとBさんは傷害致死罪の容疑で現行犯逮捕された。
Vさんは、病院に搬送されたが、後頭部を強く打ったことにより死亡していた。
しかし、Vさんの死亡がAさんの加勢前の暴行によるものなのか、それともAさんの加担後の暴行によるものなのかは不明であった。
(ケースはフィクションです。)
傷害致死罪
身体を傷害し、よって人を死亡させた者には、傷害致死罪が成立します(刑法205条)。
法律に定められた刑(法定刑)は、3年以上の有期懲役です。
傷害致死罪は、暴行の結果として傷害が発生し、その傷害の結果として死亡に至ることにより成立します。
ケースにおいて、AさんはVさんに殴る蹴る等の暴行を加えています。
そして、そのAさんとBさんの暴行の結果、Vさんは死亡しています。
とすれば、Aさんには傷害致死罪が成立すると思われます。
しかし、Vさんの死亡がAさんの加勢前の暴行によるものなのか、それともAさんの加担後の暴行によるものなのかは分かっていません。
この場合、Aさんは、Vさんが死亡したことの責任を負い、傷害致死罪の罪責を負うのでしょうか。
それとも、Vさんが死亡したことの責任は負わず、暴行罪の罪責を負うことになるのでしょうか。
共犯(共同正犯)の成立
Aさんの加勢(暴行)は、①犯罪を共同して実行する合意があり、②その合意に基づいて行われたといえることから、Aさんの加勢後の暴行につきBさんと共犯(共同正犯)が成立します。
共犯(共同正犯)が成立すると、一部の行為をしたに過ぎなくとも、全部の行為の責任を負うことになります。
これは刑法60条1項に「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」と表現されています。
それでは、Aさんが加勢する前の暴行との関係にまで、Bさんと共犯(共同正犯)が成立する場合があるのでしょうか。
というのは、Aさんが加勢する前の暴行との関係にまで、Bさんと共犯(共同正犯)が成立すると考えると、結局、Bさんによる暴行開始時点から二人の暴行終了時点まで、一貫してAさんとBさんとの間に共犯(共同正犯)が成立することとなります。
とすると、Vさんの死亡が、たとえAさんが加勢する前のBさんの暴行によるものであったとしても、一部実行全部責任によりAさんがVさんの死亡の責任を負うことになり、Aさんには傷害致死罪が成立すると考えられるからです。
(もちろん、BさんもVさんの死亡の責任を負うことにはなります。)
承継的共同正犯
この点、後に犯罪行為を行った者が、先に犯罪行為を行った者の犯罪行為および結果を、積極的に自己の犯罪遂行の手段として利用した場合、物理的にも心理的にも犯罪を実行することが容易になるような関係(利用補充関係)があったといえます。
この場合、後に犯罪を行った者が加勢する前の犯罪行為との関係においても、共犯関係が結ばれたと同じ効果が生じていたといえます。
そのため、共犯(共同正犯)と同じく、後に犯罪を行った者は加勢前の行われた犯罪行為について責任を負うと考えられています。
この考え方を承継的共同正犯といいます。
しかし、ケースにおいて、Aさんのように暴行に加勢した場合、先に行われたBさんの暴行は単にAさんの暴行の動機になったに過ぎません。
この場合、AさんがBさんの暴行を、積極的に自分の暴行の手段として利用したとは必ずしも言い切れません。
したがって、このケースにおいては承継的共同正犯は成立せず、Aさんには傷害致死罪は成立しないと考えられます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部は、刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
暴行の共犯による傷害致死罪で現行犯逮捕された場合は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部までご相談ください。