赤信号無視の人身事故
- 2021年10月9日
- コラム
赤信号無視で人身事故となる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
~事例~
大阪府堺市に住むAは、深夜に普通乗用自動車を運転して帰宅途中、前方の対面信号の赤色表示を看過し、交差点に進入しました。
そのとき、右方から交差点に進入してきたVが運転する運転の軽自動車に自車を衝突させ、軽自動車は電柱に衝突させてVに加療約1か月間を要する怪我を負わせてしまいました。
Aは、通報を受けて駆け付けた大阪府西堺警察署で逮捕されることになりました。
(この事例はフィクションです)
~人身事故~
自動車事故で相手に怪我をさせてしまった場合の罪については、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「自動車運転処罰法」)」に規定があります。
過失により、相手を死傷させてしまった場合は過失運転致死傷罪となります。
そして、今回のAのように、赤信号を無視しての人身事故では危険運転致死傷罪となってしまう可能性があります。
~危険運転致死傷罪~
自動車運転処罰法2条には、1号から6号まで、いわゆる「危険運転行為」が定められており、これに該当する行為を行って、それによって人に怪我をさせた場合に、危険運転致傷罪となります。
自動車運転処罰法第2条
1.アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
2.進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
3.進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
4.人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近しかつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
5.赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
6.通行禁止道路を進行しかつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
これらの危険運転により人を負傷させた者に対し、「15年以下の懲役」、死亡させた者に対しては「1年以上20年以下の有期懲役」が規定されています。
過失運転致死傷罪が「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」ですので、危険運転致死傷罪となってしまうと非常に重い罰則となります。
第5号では、赤信号を無視した際について規定していますが、単に信号無視をするという規定ではありません。
~「赤信号殊更無視」の解釈~
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条第5号は、赤信号を無視してという規定の仕方ではなく、「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し」と規定しています。
これは、単に赤信号を無視するだけでは、同号に当たらないということです。
では、どのような場合に「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し」に当たるのでしょうか。
判例は、被疑者が赤色信号に気付いたときの速度から停止線で停止できず、停止線を越えて停止することになるが特段の道路上の危険を生じさせない場所に停車することが可能であるのにそのまま交差点を通過した場合にも「殊更に無視」に当たるとしています(高松高判平成18年10月24日)。
また、対面信号機が赤色表示をしていることを知り、一旦停止線を越えた位置で停止したが、再度赤色信号のまま発進して人身事故を起こした場合も「殊更に無視」に当たるとされています(広島高岡山支判平成20年2月27日、最決平成20年7月7日)。
信号をどのように無視したかによって、同号に当たるか否かの判断が異なってきます。
そのため、赤信号無視で人身事故を起こしてしまったという場合には、できるだけ早い段階で刑事事件に強い弁護士の見解を聞いた方が良いでしょう。