阪南市の傷害事件 正当防衛を主張するも過剰防衛
- 2020年8月7日
- コラム
阪南市で起こった傷害事件において、正当防衛を主張するも過剰防衛と認定された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
傷害事件で正当防衛を主張
阪南市の建設現場で板金の仕事をしているAさんは、現場作業を巡って、他の作業員と口論になりました。
まったくAさんの言う事を聞こうとしない作業員に腹が立ったAさんは、声を荒げてしまったのです。
するとAさんは、この作業員に胸倉を掴まれて顔面を平手打ちされてしまいました。
激高したAさんは、咄嗟に手が出てしまい、相手の顔面や腹を手拳で複数回殴打してしまったのです。
相手の作業員は転倒し、顔面から出血する傷害を負ってしまいたした。
Aさんは若いころにボクシングを経験しており、プロのライセンスを取得しています。
そんな事情もあって、Aさんは傷害罪で大阪府泉南警察署から取調べを受ける事になりましたが、Aさんは「先に手を出したのは相手なので正当防衛だ。」と主張しています。
(フィクションです)
傷害罪
今回のケースでは、Aさんは、相手の作業員を殴って怪我を負わせてしまっているので傷害罪(刑法第204条)が成立すると考えられます。
傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」となっています。
正当防衛
Aさんは、「先に手を出したのは相手なので正当防衛だ。」と主張していますが、はたして正当防衛(刑法第36条)は成立するのでしょうか。
刑法36条1項は『急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。』と正当防衛を定めています。
正当防衛は犯罪に該当する行為を「罰しない」という強力な規定になっていますので、適用されるかどうかは具体的な要件を満たす必要があります。
まず、正当防衛は急迫不正な侵害に対して行われなければなりません。
急迫とは法益の侵害が切迫していること、不正とは違法であること、侵害とは権利に対する実害や危険があることを言います。
今回のケースでは、Aさんは相手から現に暴行を受けていますので急迫不正な侵害があったといえるでしょう。
では、Aさんは相手の作業員に平手打ちをされ、激高して殴りかかっていますが、このような場合でも防衛のための行為と言えるのでしょうか。
怒りや逆上などから反撃した場合には、防衛とは異なる動機となりますので「防衛の意思」は存在せず、正当防衛は成立しないと考えられていました。
しかし、急に他者から攻撃を受けた場合に冷静さを保って防衛の目的のみから反撃することは難しいでしょう。
そのため、裁判所は防衛の意思の内容を「急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態」と解釈を変更し、憤激や逆上から反撃行為を加えても直ちに防衛の意思がないとされることはなくなりました。
従って、Aさんは相手の攻撃(平手打ち)に対してカッとなったとはいえ、反撃として殴打したのですから、正当防衛が直ちに成立しないとは言えないでしょう。
加えて、正当防衛に必要な要件の1つである「やむを得ずした」とは、防衛行為が必要かつ相当であることと解されています。
必要性とは、反撃行為が権利を防衛する手段として必要最小限度の行為であるとする理解が有力です。
また、裁判所は「やむを得ずした」か否かを、必要性よりも相当性の有無という形で判断する傾向が強いようです。
相当性は結果の相当性および手段の相当性によって判断されます。
結果の相当性とは守ろうとした法益に対し、防衛行為がもたらした結果が著しく不均衡ではないことを言います。
手段の相当性とは、防衛行為と侵害行為の危険性の均衡をいいます。
この手段の危険性は客観的に判断され、相当性は、具体的状況の下において社会通念を基準として判断されます。
さて、今回のケースではAさんは相手の顔を殴り返したという事案です。
問題は、Aさんはプロボクサーのライセンスを持っていたということで、一般の人が他人を殴った場合と事情が異なります。
一般の人に比べて格闘技の有段者やプロライセンスを持っている場合、攻撃行為の危険性が高いと判断されます。
その為、Aさんのような場合、防衛の手段として相当性を欠くと判断されてしまう可能性も出てくるでしょう。
過剰防衛
刑法第36条2項は「防衛の程度を超えた行為」=「過剰防衛」について情状により任意的減免を認めています。
防衛の程度を超えるとはやむを得ない程度、つまり相当性を超えることを意味します。
先ほど触れたように、Aさんの反撃行為はボクシングのプロライセンスを持っていることから相当性を超えていると判断されてしまい、正当防衛とならない可能性もあります。
しかし、過剰防衛であると認めてもらえれば、刑の減免が認められる場合もあります。
こうした正当防衛と過剰防衛が問題となるような刑事事件では、まずは刑事事件の弁護経験が豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。
傷害事件に強い弁護士
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