保釈取消しの被告人が逃走
- 2019年10月31日
- コラム
昨日発生した逃走事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
◇事件◇
昨日、保釈を取り消されて、刑事収容施設(拘置所)へ収容手続き中の女性被告人が、大阪地方検察庁岸和田支部(大阪府岸和田市上野町東24-10)から逃走する事件が発生しました。
女性被告人は、男性の運転する車で逃走したようですが、その際に、静止に入った検察事務官が車にはねられて軽傷を負っており、捜査当局は殺人未遂罪や、公務執行妨害罪で捜査しています。
(令和元年10月31日付け新聞各社の朝刊を参考)
昨年発生した、大阪府富田林警察署の面会室から男性被疑者が逃走した事件が皆さまの記憶に新しいでしょうが、今回逃走したのは、保釈を取り消されて刑事収容施設(拘置所)へ収容手続き中の女性被告人です。
そこで本日は、刑事事件を専門にしている、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が、今回の事件を解説します。
◇保釈◇
今回の事件で逃走した被告人は、保釈を取り消されて刑事収容施設(拘置所)へ収容される手続き中だったようです。
まず保釈についてですが、保釈とは、すでに警察等の捜査機関の捜査を終えて、起訴された被告人が、裁判官の許可を得た上で、保釈金を裁判所に納付して釈放されることです。
保釈された被告人は、住居や行動範囲が指定される等の制限がありますが、保釈中の生活は基本的に自由で、裁判に出頭し、刑事手続きに影響を及ぼさなければ、刑事処分が確定するまで身体拘束を受けることはありません。
また保釈が決定した際に納付した保釈金については、刑事罰が確定した後に返還されます。
◇保釈の取消し◇
裁判官が保釈を決定した場合でも、保釈請求時の条件を守らなかったり、刑事裁判に出廷しなかったりした場合は、検察官の請求若しくは、裁判官の職権により、保釈を取り消される場合があります。
保釈が取り消される可能性があるのは
① 召喚を受けたのに正当な理由なく出頭しない時
② 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある時
③ 罪証を隠滅し又は隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある時
④ 被害者や、その家族、事件関係者の身体若しくは財産に危害を加えたり、これらの者を畏怖させる行為をした時
⑤ 保釈決定の際の条件に違反した時
です。(刑事訴訟法第96条1項参照)
~保釈金は戻ってくるの?~
保釈が取り消された場合、裁判所の判断で保釈金が返還されない場合があります。
(刑事訴訟法第96条2項参照)
保釈金が返還されるかどうかは、裁判所の決定、すなわち裁判官の判断に委ねられているので、弁護士が裁判官に対して働きかけることによって、保釈が取り消されても、保釈金が戻ってくる場合があります。
◇逃走罪は成立しない◇
昨年発生した、大阪府富田林警察署の逃走事件の男性被疑者には、刑法第97条に規定されている「逃走罪」が適用されていましたが、今回の逃走事件で適用されているのは、逃走したことに対して適用されている法律はなく、逃走する際に検察事務官を車ではねたことに対して、殺人未遂罪や公務執行妨害罪が適用されています。
なぜ女性被告人に、逃走罪が適用されないのでしょうか。
~逃走罪の主体~
逃走罪の主体となるのは、裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者です。
これは、刑務所に服役中の受刑者や、警察署の留置場や拘置所に勾留中の被疑者、被告人等を意味します。
今回の事件で逃走した女性被告人は、保釈を取り消されて刑事収容施設(拘置所)へ収容される手続き中だったために、逃走罪の主体とはならないため、逃走罪を適用することができなかったのでしょう。