和泉市のパチンコ店における窃盗事件
- 2020年1月19日
- コラム
パチンコ店における窃盗事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
◇事件◇
和泉市に住む会社員Aさんは、近所にあるパチンコ店によく行っています。
1ヶ月ほど前の休日に、いつものパチンコ店に行きましたが、その時、遊技する台を選んでパチンコ店内を歩いている時に、誰も座っていないパチンコ台に残金の残っているICカードが挿入されたままになっているのを見つけました。
つい魔のさしたAさんは、このICカードを遊技台から抜き取り、そのまま精算機に入れて、残高5000円を取りました。
そして久しぶりに昨日、このパチンコ店に行って遊戯していたところ、大阪府和泉警察署の警察官に「1カ月前にICカードを抜き取った窃盗事件で話が聞きたい。」と言われ、最寄りの交番に連行されました。
Aさんは、「何のことか全くわからない。」と容疑を否認し、それ以上の取調べを拒否して、制止する警察官を無視して帰宅しました。
帰宅したAさんは、その後の手続きや、処分の見通しが気になり、窃盗事件に強い弁護士に相談することにしました。
(フィクションです。)
◇何罪になるの?◇
~遺失物横領罪~
他人が抜き忘れて、パチンコ台に残っているICカードを盗んだら何罪になるのでしょうか?
「他人が抜き忘れたICカード」を「人の忘れ物」と考えれば、遺失物横領罪が成立するでしょうが、そもそも遺失物横領罪の客体となるのは「占有を離れた他人の物」です。
通常、パチンコ店のICカードは、パチンコを遊技するために、店から客に貸与されている物だという考え方が一般的です。
この考え方からすれば、ICカードは、パチンコ店で遊技する客に、一時的に占有権が与えられるだけで、正規に購入した人の占有を離れれば、即座にパチンコ店に占有が戻ると考えられます。
となれば、Aさんが抜き取ったICカードの占有権は、パチンコ店にあると考えられるので、遺失物横領罪の成立は難しいのではないでしょうか。
~窃盗罪~
上記の考えからすれば、Aさんは、「他人の忘れ物であるICカードを抜き取った」という遺失物横領の意思で犯行に及んでいますが、実際に成立するのは、お店が管理、占有するICカードを盗ったことになるので、パチンコ店に対する窃盗罪が成立するでしょう。
窃盗罪は、他人の占有する物を盗むことで、その法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
◇盗んだICカードを精算機で清算する行為は?◇
盗んだ他人のICカードを精算機で清算して現金を得る行為は、厳格に判断すれば、パチンコ店に対する窃盗罪となります。
しかし、事前にAさんには、パチンコ機からICカードを抜き取る窃盗罪が成立しているので不可罰的事後行為となって、新たな窃盗罪については刑事罰に問われない可能性が非常に高いです。
~不可罰的事後行為とは~
不可罰的事後行為とは、窃盗罪のような状態犯の場合、事後の行為であって、それだけを切り離してみれば別罪を構成するように見えても、元の構成要件の違法評価に包含されているため別罪としては成立しないものをいいます。
ただ盗んだ物をどのように使用、処分しても全ての行為が不可罰的事後行為となって別罪に問われないわけではありません。
例えば、盗んだ他人のクレジットカードを使用して買い物をすれば、クレジットカードを盗む窃盗罪の他に、他人のクレジットカードを使用して買い物をする行為に対しては、詐欺罪が成立します。
◇警察の捜査◇
Aさんの否認が通用するかどうかについて気になるのではないでしょうか。
そこで、今回の事件を参考に、警察が窃盗事件をどのように捜査するのかについて解説します。
窃盗事件の場合ですと、そのほとんどは、被害者が警察に被害届を提出することによって警察は捜査を開始します。
今回の事件も、被害者から被害届を受理した警察は、パチンコ店の防犯カメラを精査して、被害の状況を確認するでしょう。
当然、そこにはAさんが、パチンコ機からICカードを抜き取り、精算機で清算する姿が写っているはずです。
最近は、銀行のATM機や、パチンコ店の精算機など、現金を扱う機械には、その機械を操作している人の顔がアップで記録される機能が搭載されているので、Aさんの顔写真を警察が入手することは容易だと思われます。
こうして犯人の顔写真を入手した警察は、パチンコ店等に聞き込み捜査を行います。
Aさんは、このパチンコ店によく通っていたので、パチンコ店の店員の証言や、場合によっては会員登録の情報などから犯人がAさんであることは容易に割り出されてしまうでしょう。