自白の任意性
- 2019年11月8日
- コラム
自白の任意性について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
◇事例◇
Aさんは、泉佐野市内にある大型ショッピングモールにてカメラを盗んだとして窃盗罪で大阪府泉佐野警察署に逮捕されました。
逮捕後Aさんは一貫して容疑を否認しており、警察も防犯カメラの映像が不鮮明であったことからAさんが犯人であるという決定的な証拠を得られずにいました。
警察は何とかAさんから自白を引き出そうと考え、取調べの際にAさんに対し「お前が犯人であるという証拠はもう揃っている。今のうちに犯行を認めれば不起訴になる可能性もある」と申し向けてきました。
Aさんは、証拠があるのならこれ以上否認しても仕方ないと思い、犯行を認めた上で盗んだカメラを質屋に売った旨の供述をしてしまいました。
Aさんの供述に基づいて捜査を行った警察は、Aさんが盗んだカメラを売ったことを裏付ける証拠を取得しました。
その後、Aさんは窃盗罪で起訴されてしまうことになりました。
Aさんは、警察が虚偽の事実を告げたり、不起訴処分をちらつかせて自白を促したことは納得がいかないと主張しています。
(フィクションです)
◇自白の任意性◇
刑事訴訟法第319条1項は、「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。」と定めています。
「証拠とすることができない」とは、証拠能力が否定されることを意味し、裁判において証拠とすることが出来ないことになります。
「自白」とは、犯罪事実の全部または主要部分を認める内容の供述のことをいいます。
Aさんは、自らの犯行を認めていることから、犯罪事実の全部を認める供述をしたといえ、「自白」をしたといえます。
本件でのAさんの自白については、強制、拷問又は脅迫といった手段によるものではなく、Aさんが不当に長く抑留又は拘禁されたとの事情もありません。
そこで、Aさんの自白が、「その他任意にされたものでない疑いのある自白」にあたるかどうかが問題となります。
任意性に疑いのある自白が排除される趣旨は、そのような自白は内容が虚偽である可能性が高く、また被告人の黙秘権を実質的に保護することにあります。
したがって、「その他任意にされたものでない疑いのある自白」とは、自白の採取過程に虚偽自白誘発のおそれがある場合や、黙秘権を実質的に侵害しているような場合に認められます。
Aさんに対する取調べでは、警察官がAさんに対し、実際には、警察は決定的な証拠が無いにもかかわらず「お前が犯人であるという証拠はもう揃っている」と告げていますが、これは虚偽の事実を告げていると評価できる可能性があります。。
また、警察はAさんに対し「今のうちに犯行を認めれば不起訴になる可能性もある」と言ってAさんに対し自白を促しています。
このように、虚偽の事実を告げたり不起訴処分をちらつかせて自白を促すような行為は、被疑者に心理的圧迫を与えることになり、虚偽自白を誘発するおそれがあると評価される可能性があります。
したがって、Aさんの自白は「その他任意にされたものでない疑いのある自白」と評価される可能性があるのです。
しかし、Aさんの供述に基づいて捜査を行った結果、Aさんが盗んだカメラを売ったことを裏付ける証拠が出てきているので、Aさんの供述は虚偽ではないと評価されます。
この場合、警察の誘導がAさんの黙秘権を侵害するようなものと言えるかが重要となるでしょう。
仮に、自白の証拠能力が否定されてしまう場合には、起訴後であれば無罪になる可能性があり、起訴前であれば不起訴処分となる可能性もあります。
そのためAさんのように、任意性に疑いのある自白をしてしまった場合には、弁護人を選任して自白自体の証拠能力を争うことが重要になります。
もっとも、他に有力な証拠がある場合、自白そのものが証拠として認められなくても、起訴され有罪判決を受ける可能性があります。