共犯のいる傷害致死事件と同時傷害の特例
- 2021年5月7日
- コラム
共犯のいる傷害致死事件と同時傷害の特例
共犯のいる傷害致死事件と同時傷害の特例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
前回の記事の続きとなります。
同時傷害の特例
2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、その傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくとも、共犯の例によるとされています(刑法207条)。
これを「同時傷害の特例」と呼んだりします。
この同時傷害の特例は、複数の被疑者によって事前の連絡なく同時に被害者に暴行を加え傷害を負わせたが、複数の被疑者のいずれの暴行によるものか不明の場合についてのものです。
実務の現状として傷害罪における傷害の原因となった暴行を特定することが困難であるため、「疑わしきは被告人の利益に」の原則から各被疑者とも暴行罪にとどまる結論を不当として、各被疑者に傷害罪が成立するとしています。
また、この同時傷害の特例は、複数の被疑者の暴行の結果として傷害罪における傷害を負わせた場合のみならず、傷害致死罪における死亡に至った場合にも適応されると考えられています。
これは、同様に、実務の現状として傷害致死罪における死亡の原因となった暴行を特定することが困難となるからです。
学説の対立
この同時傷害の特例が今回のケースにおいても適用されると考えると、Aさんにも傷害致死罪が成立すると考えられます(学説①)。
しかし、この同時傷害の特例は、共犯関係にある場合に適用されることは想定されていないとも考えることができます。
なぜなら、この条文は誰も死亡について責任を負わなくなる場合を想定して特別に定められた例外規定です。
ですが、共犯関係にある場合、少なくとも先に犯罪行為を行った者は傷害致死罪の罪責を負うからです。
というのは、前回の記事に記載した事例で、Bさんは、暴行開始時から終了時まで一貫して暴行を継続しています。
そして、Aさんが加勢した後の暴行については、Aさんと共犯(共同正犯)が成立します。
とすれば、Vさんの死亡が、Aさんが加勢する前のBさんの暴行によるものであったときは当然、たとえ(Aさんが加担した後の)Aさんによるものであっても一部実行全部責任よりBさんの責任となると考えられます。
したがって、BさんにVさんの死亡の責任を負わせる傷害致死罪が成立するのです。
このように、同時傷害の特例が今回のケースにおいては適用されないと考えると、Aさんには傷害致死罪が成立せず、暴行罪が成立するのみであると考えられます(学説②)。
以上、この点につき、法律論として学説①と学説②で争いがあります。
Aさんの弁護側としては、Aさんへの傷害致死罪の成立を避けられるのかどうか、詳しい事情を全て総合した上で法律構成を考えていくことになるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部は、刑事事件のみを扱う法律事務所として、数多くの刑事弁護実績を挙げています。
共犯の存在する刑事事件では、誰にどういった犯罪がどのような構造で成立するのか、専門的な知識を元に検討しなければなりません。
ただでさえ分かりづらい刑事事件が複雑になりがちですから、共犯の存在する刑事事件については、早期に弁護士のサポートを受けた方がよいでしょう。
大阪府堺市の共犯の存在する刑事事件にお困りの際は、遠慮なく弊所弁護士までご相談ください。