ストーカー規制法と脅迫罪
- 2019年10月15日
- コラム
ストーカー規制法と脅迫罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
◇事件◇
貝塚市に住む会社員Aさんは、結婚を約束した婚約者がいましたが、3カ月ほど前にこの婚約者から「好きな人ができたので別れてほしい。」と言われてしまいました。
急に別れを告げられたAさんは納得できず、メールを送信したり、携帯電話に電話して、婚約者に何度も復縁を迫りましたが受け入れてもらえませんでした。
そのことに苛立ちを覚えたAさんは、段々と婚約者に送信するメールも次第に過激な内容になってしまい、遂には「このままだとお前を殺してしまうかもしれない。」というメールを送信してしまいました。
しばらくして婚約者の代理人となる弁護士から「刑事告訴を検討している。」旨の文書が自宅に郵送されてきたAさんは、自分の行為が何罪に該当するのかを刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(フィクションです。)
本日は、Aさんの行為が何罪に抵触するのかについて検討します。
◇ストーカー規制法違反◇
ストーカー規制法(正式名称「ストーカー行為等の規制等に関する法律」)は、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的にした法律で、この法律では①「ストーカー行為」と「②つきまとい等」を禁止しています。
①ストーカー行為
同一の者に対して、つきまとい等を反復して行うこと。
②つきまとい等
「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情や好意の感情、またはそれらの感情が満たされなかったことに対する怨根の感情を充足する目的で、この特定の者や、その配偶者や直系若しくは同居する親族、その他、社会生活において特定の者と親密な関係を有する者に対して以下の8類型の行為をすること。
●つきまとい・待ち伏せ行為(特定の者の勤務先等、関係先での見張りや押し掛け、みだりにうろつく行為を含む)
●監視していると告げる行為(直接告げなくても、特定の者が監視されていることを知り得る状態になる行為を含む)
●面会・交際の要求(面会・交際だけでなく特定の者に義務のないことを要求する行為を含む)
●粗野又は乱暴な言動
●無言電話、電子メール等の送付(FAX送信、SNSを利用したメッセージの送信や、ブログ等への書き込みを含む)
●汚物などの送付(汚物などとは、著しく不快若しくは嫌悪の情を催させるような物を意味する)
●名誉を害する行為
●性的羞恥心を害する行為
Aさんが婚約者に対して、何度も復縁を迫る内容のメールを送信した行為は、上記8類型の「無言電話、電子メール等の送付」に該当する可能性が高いでしょうし、その内容によっては「面会・交際の要求」に該当する可能性もあり、この行為を繰り返せば「ストーカー行為」に該当するでしょう。
◇脅迫罪◇
また最終的にAさんは、婚約者に対して「このままだとお前を殺してしまうかもしれない。」というメールを送信していますが、この行為は、人の生命に対して害を加えることを告知しているので、刑法第222条に定められている 脅迫罪 に抵触する可能性が非常に高いでしょう。
脅迫罪は個人の自由に対する罪です。
脅迫罪は、危険の発生を必要としない危険犯で、害悪を加えることが相手方に告知されたときに既遂に達するもので、未遂罪は存在しません。
脅迫の主体に制限はなく、客体は自然人である必要があります。
ちなみに、幼児や、精神病者等のように告知された内容を理解し得ない者に対する脅迫罪は成立しません。
また脅迫は、相手を畏怖させる目的で害悪を告知する必要がありますが、実際に相手方が畏怖したかどうかは、脅迫罪の成立を左右しません。
害悪を告知する方法に制限はありませんので、Aさんのようにメールで送信する行為も脅迫罪の対象となります。
害悪の内容は、人を畏怖させるのに足りるものでなければならず、相手方の境遇や、年齢、その他の事情を考慮して脅迫に該当するかどうかが判断されます。
また、言語による脅迫場合は、口にした内容だけでなく、告知者の態度や、人柄、その他の状況を考慮して脅迫に該当するかどうかが判断されます。
ちなみに脅迫罪は故意犯ですので、その成立には故意が必要となります。
脅迫罪の故意とは、行為者が告知内容を認識し、それによって人を畏怖させようとする意思です。