特殊詐欺事件に窃盗罪が適用
- 2019年10月14日
- コラム
特殊詐欺事件の受け子に窃盗罪が適用された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
◇事件◇
大学生のAさん(21歳)は、大学の講義が忙しくてアルバイトができず、生活費を工面するのに苦労していた中、高校時代の先輩から「いいバイトがあるけどやらないか?」と誘いを受けました。
そのアルバイトの内容は、警察官になりすまして指定された家に行き、そこで家人に対して「あなたの銀行口座が犯罪に使用されている。しばらく口座を調べなければいけないので口座を使用しないでほしい。持っているキャッシュカードを封筒に入れて厳重に保管して欲しい。」と申し向けて、家人に銀行のキャッシュカードを封筒に入れさせます。そして家人が封筒から目を離した隙に、別の封筒と差し替えて、家人がキャッシュカードを入れた封筒を盗むといったもので、特殊詐欺の受け子に当たる行為でした。
Aさんは、アルバイトの内容が、明らかな犯罪行為であることは認識していましたが、高額な報酬を得れることから、これまで5回ほど、犯行に及んでしまいました。
しかし先日、泉大津市の指定された家に行き、同様の手口でキャッシュカードを盗んで駅に向かって歩いていたところ、警察官の職務質問を受けて犯行が発覚し、Aさんは窃盗罪で逮捕されてしまいました。
(実際に起こった事件を基にしたフィクションです。)
◇特殊詐欺事件◇
もう何年も前から、振り込め詐欺等の特殊詐欺事件が世間を騒がせています。
警察等の捜査当局が勢力を上げて特殊詐欺事件の取締りを行っていますが、犯人グループは次から次に新たな手口で犯行を重ね、未だに被害は増加傾向にあるといいます。
特殊詐欺事件は、オレオレ詐欺に始まり、還付金詐欺や、ワンクリック詐欺等これまで様々な手口が明るみになってきましたが、何れの場合も詐欺罪が適用されてきたように思われます。
ところが、最近になってAさんのような手口の事件が頻発し、各地で窃盗罪が適用されているようです。
そこで本日は、特殊詐欺事件の中でも窃盗罪が適用されるケースを解説します。
◇なぜ詐欺罪が適用されないの?◇
詐欺罪は、人を騙して金品の交付を受けることによって成立する犯罪です。
詐欺罪は
①人を欺く行為(欺罔行為)→②相手が錯誤に陥る(騙される)→③財産の処分行為(交付)
といった最低でも3つの過程を経て成立する犯罪で、それぞれに因果関係がなければなりません。
そして、③財産の処分行為(交付)は、被害者の意思に基づくものでなけれなりません。
つまり加害者の欺罔行為によって、騙された被害者が、被害者の意思に基づいて加害者に財物を交付し、それを加害者が受け取った時点で詐欺罪が成立するのです。
◇今回の事件を検討◇
Aさんが、被害者に告げた内容は全て嘘ですので、詐欺罪でいうところの「人を欺く行為(欺罔行為)」が認められ、その欺罔行為によって、被害者はAさんの言うことを信じ込んで、銀行のキャッシュカードを封筒に入れており、詐欺罪でいうところの「被害者が錯誤に陥っている」ことも認められます。
しかし今回の事件で、被害者は、財産(被害品)となる封筒に入ったキャッシュカードをAさんに交付する意思はなく、実際に交付していません。
上記したように、詐欺罪が成立するには、被害者の意思に基づいて加害者に財物を交付することが必要ですので、詐欺罪は成立しないことになります。
◇窃盗罪◇
それでは今回適用された窃盗罪について検討します。
窃盗罪は、他人の財物を窃取することによって成立する犯罪ですが、ここでいう窃取とは「被害者の意思に反して他人の占有する被害品を、自己の占有(支配下)に移転させる」ことです。
今回の事件でAさんは、被害者が封筒から目を離した隙に、別の封筒と差し替えて、キャッシュカードの入った封筒を盗んでおり、この行為は窃盗罪でいうところの「窃取」に当たります。
今回の事件で、Aさんは言葉巧みに被害者を騙しているので一見詐欺罪が成立するかのように思われますが、この行為は、窃盗行為を行うための手段、方法であって、Aさんの行為が窃盗罪に抵触することは間違いないでしょう。