和歌山市の殺人未遂事件
- 2019年11月3日
- コラム
和歌山市内の刑事事件に対応する刑事弁護士について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部が解説します。
◇事件◇
会社員のAさんは2日前から和歌山市に出張しています。
仕事終わりに、和歌山市内の繁華街にある居酒屋でお酒を飲んでいたAさんは、相当酔払ってしまい、居酒屋を出てからの記憶がほとんどありません。
ハッキリと覚えているのは、翌朝からの記憶で、Aさんは、和歌山県和歌山東警察署の留置場で目を覚ましました。
そして担当の刑事さんから「居酒屋の外でトラブルになった若者を殴り、階段から突き落とした。被害者は階段から転げ落ちて、頭を強打し重傷を負って入院している。殺人未遂罪で現行犯逮捕した。」と、昨夜の出来事を聞かされました。
家族が手配した弁護士と面会したAさんは、弁護士から、今後の手続きや、処分の見通しを聞き、早急に被害者との示談を望んでいます。
(フィクションです。)
刑事事件が報じられるニュースなどで「刑事責任能力」という言葉を聞いたことがある方も多いかと思います。
刑法においては、心神喪失者の行為は罰しない(刑法第39条1項)、心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する(同第39条2項)と、責任能力のない者の行為についての規定があります。
Aさんのように、記憶を失うほど酒に酔っていた時の行為は、刑事罰の対象となるのでしょうか?そこで、本日はAさん起こした事件と責任能力について検討します。
◇殺人未遂罪◇
ケンカした相手に傷害を負わせると「傷害罪」で逮捕されるのが通常ですが、暴行の程度や被害者の怪我の程度によっては、Aさんのように、殺人未遂罪で逮捕される場合もあります。
殺人(未遂)罪が成立するには、行為者に「殺意」が必要となりますが、殺意とは殺人の故意であって、これは行為者の心の声です。
殺意があるか否の真相は行為者にしか分からず、当然、第三者が知り得ることはできません。
取調べ等において「相手を殺そうと思った。」とか「相手が死んでも構わないと思った。」と供述すれば、殺意は明らかなものになりますが、供述がなくても被害者に対する暴行の程度や内容と、被害者の怪我の程度等によって総合的に判断され、客観的に殺意が認められてしまう場合があります。
Aさんの事件を検討しますと、被害者を殴る程度の暴行ですと「傷害罪」が適用されるにとどまるでしょうが、被害者を階段から突き落としている行為については
●故意的に階段から突き落としたのかどうか。
●階段の何段目から突き落としたのか。
●階段の形状。
等によっては、「殺人未遂罪」が適用される可能性があります。
◇責任能力◇
Aさんのように、お酒を飲んで記憶がなくなるほど酩酊している場合の行為は、刑事罰に問われないのでしょうか?
前述したように、刑法では、心神喪失者や心神耗弱者の行為に対しては、刑事責任能力が認められず、刑の免除や減軽を規定してますが、お酒に酔った酩酊状態での行為も、これに該当するのでしょうか。
「お酒に酔って酩酊状態=刑事責任能力がない」ではありません。
一般に責任能力があるかどうかは、犯行当時の精神障害の状態、犯行前後の行動、犯行の動機、態様などを総合的に考慮して判断されますので、どの程度のアルコールを摂取し、犯行時にどの程度酩酊していたのかが、重要な判断基準になると考えられています。
酩酊の程度については、一般的な酩酊状態である「単純酩酊」と、それを超える程度の「異常酩酊」の状態があるとされます。
そして異常酩酊の中にも、激しく興奮して記憶が断片的になる「複雑酩酊」と、意識障害があり幻覚妄想などによって理解不能な言動が出てくる「病的酩酊」の二つの状態があります。
これはあくまで判断の目安に過ぎず、それぞれの境界は明確ではありません。
しかし、一般的には、単純酩酊であれば、刑法第39条のいう「心神喪失」や「心神耗弱」には当たらず、完全な責任能力が認められる可能性が非常に高いでしょう。
そして、複雑酩酊の場合は心神耗弱状態、病的酩酊の場合には心神喪失と認められる可能性が高いと言われています。
◇Aさんの場合◇
Aさんの事件を検討しますと、取調べにおいて「酒に酔っていて何も覚えていない。」と供述したとしても、それだけで「刑事責任能力が認められないほど酩酊していた。」とは認められないでしょう。
これまでのAさんの酒癖や、実際に飲んだお酒の量、そして犯行前後の言動が総合的に考慮されて、判断されることなるのです。
実際にこれまで、お酒に酔って酩酊状態であるとして「心神耗弱」が認められた事件もありますが、単純酩酊の場合は、責任能力は認められると思われますので、不安な方は、刑事事件専門の弁護士に相談することをお勧めします。